建設業界で事業を営む皆様の中には、「うちは請負契約ではなく、業務委託契約の形式で仕事を受けているから、建設業許可は必要ないのではないか?」と考える方がいらっしゃるかもしれません。しかし、この認識は大きな誤解を招く可能性があります。

結論から申し上げますと、建設業許可の要不要は、契約書の名称が「業務委託契約」であるか否かによって決まるものではありません。 重要なのは、その契約が持つ「実態」が建設業法に定める「請負契約」に該当するかどうか、という点です。

今回は、「業務委託契約」という名称の背後にある建設業許可の原則と、無許可営業のリスクについて、行政書士が分かりやすく解説します。

1. 建設業許可の基本原則:請負契約とは何か?

まず、建設業許可が求められるのはどのような場合かを確認しましょう。建設業法第3条は、「建設工事の完成を請け負うことを営業とする場合」に、国土交通大臣または都道府県知事の許可が必要であると定めています。

ここでいう「請負」とは、民法上の概念であり、「当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約する」契約を指します。ポイントは「仕事の完成」という結果に対する責任と、それに対する報酬です。

例えば、建物の新築や改修、特定の設備設置など、明確な「工事の完成」を目的とする契約は、その名称が何であれ、建設業法上の「請負契約」に該当します。

2. 「業務委託契約」の法的実態とその判断基準

では、「業務委託契約」と銘打たれた契約はどうでしょうか。

「業務委託契約」という名称は、法律で厳密に定義された契約形態ではありません。一般的には、民法上の「準委任契約」(特定の事務処理そのものを目的とする)や「請負契約」(仕事の完成を目的とする)のいずれか、または両方の性質を併せ持つものとして用いられます。

しかし、建設工事においては、たとえ契約書に「業務委託契約」と記載されていても、その契約の具体的な内容が、何らかの建設工事を完成させることを目的とし、その完成に対して報酬が支払われる実態があるならば、法的には「請負契約」とみなされる可能性が非常に高い**のです。

建設業法は、建設工事の適正な施工を確保し、発注者や元請負人を保護することを主な目的としています。もし契約の名称を「業務委託」に変えるだけで許可義務を回避できるとすれば、この法律の趣旨が形骸化してしまいます。そのため、行政庁は契約の「名称」ではなく、その「実態」を見て許可の要否を判断します。

3. 「軽微な工事」の例外と「業務委託契約」の関係

建設業許可には、「軽微な工事」の例外規定があります。具体的には、請負金額が500万円未満(建築一式工事の場合は1,500万円未満)の工事は、建設業許可が不要とされています。

この例外規定は、あくまで請負金額が一定額に満たない工事について適用されるものです。「軽微な工事」の範囲内であれば、その工事を請け負うために建設業許可は不要ですが、これは契約が「業務委託契約」だから不要になる、という意味ではありません。 請負金額が500万円(または1,500万円)以上の工事であれば、契約の名称が何であっても、その実態が建設工事の完成を目的とする限り、原則として建設業許可が必要となります。

4. 無許可営業が招く重大なリスク

建設業許可が必要な工事を無許可で請け負うことは、建設業法違反(無許可営業)に該当し、以下の様な重大なリスクに直面する可能性があります。

  • 罰則: 無許可営業には、3年以下の懲役または300万円以下の罰金といった重い罰則が科される可能性があります。
  • 許可の取り消し: もし他の建設業許可を既に持っている場合でも、無許可営業が発覚すれば、その全ての許可が取り消されることがあります。
  • 社会的信用の失墜: 法律違反が公になれば、企業としての社会的信用は著しく低下し、今後の事業継続に壊滅的な影響を及ぼす可能性があります。
  • 契約の無効・請負代金請求の困難: 最悪の場合、無許可で締結した契約が無効と判断されたり、施工した工事に対する請負代金の請求が法的に認められなくなるリスクも存在します。

近年、建設業界では法令遵守が非常に厳格化されています。特に、社会保険や労働保険への加入が建設業許可の要件として義務付けられるなど、適正な事業運営が強く求められています。契約の名称を形式的に変更するだけで、これらの法的義務から逃れることはますます困難になっているのが現状です。

5. 建設業許可の主な要件(参考)

建設業許可を受けるためには、主に以下の要件を満たす必要があります。

  • 経営業務の管理を適正に行う能力: 適切な経営経験を持つ常勤の役員等(経営業務管理責任者)またはそれに準ずる体制が求められます。
  • 営業所技術者等(専任技術者)の配置: 営業所ごとに、許可を受けようとする業種に関する国家資格または実務経験を持つ技術者を常勤で配置する必要があります。
  • 財産的基礎・金銭的信用: 一般建設業では自己資本500万円以上、または500万円以上の資金調達能力が求められます。
  • 欠格要件に該当しないこと: 法律で定められた欠格要件(過去の法律違反、破産など)に該当しないこと。
  • 営業を行う事務所の存在: 建設業の営業を実質的に行う事務所を有すること。

これらの要件をクリアし、適正な許可を得ることが、貴社の健全な事業発展のために不可欠です。

6. 迷ったら専門家へ:行政書士にご相談ください

「業務委託契約」という名称の解釈や、ご自身の事業が建設業許可の対象となるのか否か、どの業種に該当するのかといった判断は、専門知識を要する複雑なものです。誤った判断は、取り返しのつかないリスクにつながりかねません。

当事務所では、建設事業者様の事業内容を丁寧にヒアリングし、建設業許可の要否判断から、複雑な申請書類の作成、決算変更届の将来を見据えた作成、経営事項審査(経審)の評点アップ対策、さらには入札参加の手続きや産業廃棄物収集運搬業許可申請に至るまで、貴社の事業が安心して発展できるよう、多角的なサポートを提供しております。

「もしかしたら許可が必要なのでは?」「この契約は問題ないのだろうか?」といった疑問や不安をお持ちの際は、ぜひ建設業許可を専門とする行政書士中村さつき事務所にご相談ください。あなたの事業を法的に守り、さらなる発展へと導くお手伝いをさせていただきます。

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中村さつき
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